川崎病とは
川崎病は、4歳以下の乳幼児に多く見られる、全身の血管に炎症が生じる疾患です。1967年に川崎富作先生によって初めて報告されたことから、この病名がつけられました。ただし、はっきりとした原因は現在でも不明です。
38℃以上の高熱が数日間続き、両眼の白目の充血、唇や舌の赤み、首のリンパ節の腫れなどの症状が現れます。冠動脈瘤や肝臓・腎臓・脳などの合併症を防ぐためには、早期に適切な治療を受けることが大切です。患者数は年々増加しており、決して稀な病気ではありません。
川崎病の原因
現在のところ明確な原因は分かっていませんが、ウイルスや細菌への感染をきっかけに、人の免疫が過剰に反応し、全身の血管に炎症を引き起こすのではないかと考えられています。ある研究では、患者の約70%が3歳未満であり、発症のピークは男児が6~8か月、女児は9~11か月であると報告されています。
川崎病は人にうつるの?
現在のところ、川崎病が他の方にうつった(二次感染した)という報告はありません。このように、風邪やインフルエンザのような感染症とは異なります。しかし、川崎病の発症には感染症が関与している可能性があると指摘されており、一部のウイルスや細菌、またはそれらに対する免疫反応が発症の引き金になるのではないかと考えられています。ただし、これが直接的な伝染と言えるものとは言い切れません。
また、病名につく「川崎」は、病気を初めて報告した川崎富作博士にちなんだ名前ですので、地名とは関係なく、公害ではありません。
川崎病の症状
初期症状:発熱
多くの場合、突然の発熱から始まり、その後数日のうちにその他の症状が現れます。しかし、年長の子供の場合には、発熱よりも先に頸部の痛みや頸部リンパ節の腫れが現れることがあり、その時点では化膿性頸部リンパ節炎や流行性耳下腺炎(おたふく風邪)と診断されてしまうこともあります。
目の充血
両目の白い部分(眼球結膜)の血管が拡張することにより、赤く充血します。
口唇の赤み・イチゴ舌
唇が真っ赤になる、舌が苺のようにブツブツと赤くなる「いちご舌」、口腔内の粘膜全体が赤くなるなどの症状が見られます。
発疹
体幹や両手両足に盛り上がった発疹が出ます。また、BCGを接種した部位が赤くなったり腫れたりすることも、川崎病特有の症状の1つです。
手足の腫れ
急性期には、手足に硬性浮腫(こうせいふしゅ:指で押しても跡が残ったり凹んだりしないタイプの浮腫)や、手のひら・足の裏に紅斑が現れます。
川崎病における硬性浮腫は、血液中のアルブミンなどの血漿(けっしょう)たんぱくが血管の外に漏れ出すことで生じます。痛みを伴うことが多いのですが、乳児だと痛みを上手く伝えられないため、ぐずるといった様子を見せることがあります。
治療によって他の症状が落ち着いてくる回復期には、手や足の指先の皮が剥がれる膜様落屑(まくようらくせつ)が見られます。
リンパ節の腫れ
頸部(首の部分)のリンパ節に、化膿のない腫れが出ることがあります。
川崎病の検査と診断
川崎病の診断は、6つの主症状のうち5つ以上が認められる場合に確定されます。
ただし、主症状が4つしか該当しない場合でも、心臓超音波検査(断層心エコー検査)で冠動脈に何らかの変化が認められ、川崎病以外の病気が除外された場合には、川崎病と診断されます。
また、これらの条件に全て当てはまっていない場合でも、他の病気の可能性が除外され、川崎病が疑われる所見がある場合には、「不全型川崎病」として、川崎病と同様の治療が行われることがあります。
川崎病の治療方法
川崎病の治療では炎症反応を早期に解消させる、冠動脈瘤を予防することが重要です。発熱のある日数が長いほど後遺症のリスクが高まるため、ただ発熱が解消されるまで待つのは禁物です。
具体的な治療としては免疫グロブリン療法、アスピリン療法、ステロイド治療が挙げられます。
免疫グロブリン療法
免疫グロブリン製剤という薬を静脈内に点滴で投与し、全身の炎症を抑えることで冠動脈瘤の形成を食い止めます。点滴は約12~24時間かけてゆっくりと注入されます。
薬の効果によって川崎病の症状が改善できているかどうかをチェックする必要があるため、通常は5~7日程度、入院治療を受けていただきます。
アスピリン療法
アスピリン薬を服用する治療法で、血管の炎症を抑制させたり、発熱を下げたり、血液を固まりにくくすることで血栓の形成や冠動脈瘤の発生を防ぐ効果があります。
退院後も、通常は2~3か月間、ご自宅で服用を続ける必要があります。副作用として、出血時に血が止まりにくくなることがあるため、注意が必要です。アスピリンには苦味はありませんが、水に溶けにくいため、適切な方法で内服することが大切です。
免疫グロブリン療法とアスピリン療法を併用することで、数日以内に発熱が治まり、その他の症状も改善していきます。その結果、冠動脈瘤の予防にも期待できます。
ステロイド治療
全身の炎症を抑制するためにステロイド治療を選択することがあります。初めは点滴による投与から行い、症状の改善に応じて徐々に内服薬を用いる治療へ移行します。ステロイドは苦味が強いため、アスピリンと同様に内服方法を工夫する必要があります。
退院後の生活については、冠動脈に後遺症が認められない場合でも、予防的に2〜3か月間の内服治療が必要です。ただし、日常生活において特別な注意点はなく、運動の制限も必要ありません。
一方で、後遺症として冠動脈瘤ができてしまった場合には、血液を固まりにくくする治療が継続されます。さらに、心臓の酸素不足を示す症状や検査所見がある場合には、心臓カテーテル治療や手術などを提案する可能性もあります。
川崎病の後遺症について
川崎病で最も大切なことは、発熱した日から「9日以内」に血管の炎症を抑えることです。
これは全ての症例に当てはまるわけではありませんが、10日以上発熱が続く場合には、冠動脈に悪い変化が生じやすいことがわかっています。冠動脈に変化が生じやすい方には、こまめに心臓超音波検査(心エコー)を行い、冠動脈に異常がないかを確認する必要があります。
冠動脈に変化が現れた場合、まず血管が膨らみ始めます(血管径が4mmまで)。さらに進行すると、瘤(こぶ)のような形になります(血管径が4mm以上)。
冠動脈瘤の大きさが5mm以下であれば、元の太さに戻る可能性があります(これを「退縮」と呼びます)。しかし、6mm以上になると元に戻らず、将来的に冠動脈が狭くなって狭心症や心筋梗塞を起こしやすくなると考えられています。
ちなみに、2017年に発表された第24回川崎病全国調査によると、2015年1月から2016年12月までの2年間に、日本全国で31,595人の子どもが川崎病を発症したと報告されています。そのうち、冠動脈瘤の後遺症があった方は242人(0.8%)、冠動脈が細くなってしまった方は12人(0.04%)で、残念ながら2人の子どもが命を落としています。
川崎病の後遺症が出てしまった場合には、長期間アスピリンやワーファリンといった血液をサラサラにする薬を服用するのに加えて、定期的に心臓超音波検査を受けなくてはなりません。
将来的に冠動脈が正常な太さに戻れば、内服を止めることができますが、瘤が残った場合には継続的な治療が必要です。また、数年ごとに心臓カテーテル検査による冠動脈の状態確認も行われます。