小児気管支喘息とは?病態について
気管支喘息は、気道に慢性的な炎症が起こることで、咳や息苦しさといった症状を繰り返す病気です。
乳幼児期に多く、発症のピークは2~3歳頃です。6歳までに80~90%の子どもが発症すると言われているため、早めに適切なケアを始めることが大切です。
最近では、炎症をしっかり抑える日々の治療を続けることで、喘息発作による入院や救急受診が少なくなってきています。辛い発作をできるだけ防ぐためにも、お子さんの症状やライフスタイルに合った治療プランをぜひご一緒に見つけていきましょう。
気管支喘息の症状
典型的な症状としては、喘鳴(ゼーゼーと音を立てる呼吸)を伴う咳や、呼吸が苦しくなる状態が挙げられます。
運動をした際や、大きな声で笑った後に咳き込むような症状も、軽度の喘息発作である可能性があります。
このような症状はありませんか?
- ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音が繰り返し現れる
- 風邪が治った後も咳が長く続いたり、呼吸音が残ったりする
- 夜間や明け方に咳が出て眠れなくなる
- 咳き込んだ際に嘔吐することがある
- 運動やほこりの吸入によって咳や呼吸音が出ることがある
- 呼吸が苦しく感じられる
- 季節の変わり目や寒暖差によって症状が現れる
- 遊びすぎたり疲労が蓄積したりした際に、症状が悪化する
気管支喘息の原因
喘息は、特定の遺伝的要因と環境的要因が、互いに影響を及ぼしながら発症していると考えられています。
喘息が悪化する原因
喘息の症状を悪化させる要因には、アレルギー反応、感染症、気圧や気温の変化、タバコの煙、花火やお香による煙、ストレスなど、様々なものが挙げられます。気管支喘息を発症している子供の多くは、花粉、ダニ、ハウスダストなどに対するアレルギーを併せ持っているとされています。
喘息の治療においては、発作を予防することが重要であるため、症状を悪化させる要因を正しく理解しておくことが大切です。
アレルゲン
アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)が体内に侵入すると、アレルギー反応が引き起こされ、喘息の症状が悪化する要因となります。主なアレルゲンには、花粉、ダニ、ハウスダスト、皮膚のフケ、カビ、動物の毛、昆虫の死骸や糞、布製品の繊維などが挙げられます。どの物質がアレルギー反応の原因となっているかは、血液検査などによって確認することが可能です。アレルゲンの少ない環境で生活することが重要であるため、こまめに掃除を行い、室内を清潔に保つよう心がけましょう。
感染症による炎症
風邪などの感染症は、気道を含む咽頭周辺に炎症を引き起こします。感染症によって生じた気道の炎症は、喘息の症状を悪化させる原因となります。風邪を予防するよう心がけ、万が一感染した場合には、早めに医療機関を受診することが大切です。
運動
運動がきっかけとなって喘息発作が起こる場合があり、このような状態は「運動誘発喘息」と呼ばれています。冷たい空気を口から吸い込むことで気道が冷え、発作が引き起こされることがあります。
短時間や軽度の運動では問題がなくても、長時間にわたる運動では発作が生じることがあります。特に、気温が低く空気が乾燥している冬季には、症状が現れやすくなります。
なお、運動誘発喘息の既往歴がある場合でも、運動が全くできなくなるわけではありません。症状の程度に応じて運動量を調整する必要はありますが、治療を継続しながら発作の予防に努めることで、徐々に制限を緩和し、様々な運動に取り組めるようになります。
気候・気象
気温や気圧の変化、空気の乾燥などの気象条件によっても、喘息発作が引き起こされることがあります。特に、冬季に室内から屋外へ出た際の急激な気温差や、台風の接近などによる気圧の急変時に、発作が生じやすくなります。
花粉・タバコの煙など
大気中の汚染物質が原因となり、喘息発作が引き起こされることがあります。気管支喘息では、気管支の粘膜が炎症を起こして過敏な状態になっているため、些細な刺激でも発作が生じる可能性があります。大気を汚染する物質としては、花粉、タバコの煙、花火やお香の煙、微小粒子状物質(PM2.5)などが挙げられます。
家庭内に喘息の症状を持つ方がいる場合には、室内での喫煙は控える必要があります。また、屋外で喫煙した場合でも、喫煙後しばらくの間は呼気に有害物質が含まれている可能性があるため、喫煙後は一定の時間を空けてから室内に入るようにしましょう。
ストレス
強いストレスによって、喘息発作が起こりやすくなることがあります。疲労の蓄積や睡眠不足も発作の誘因となるため、日常生活の中で十分な休息を取りましょう。
気管支喘息の検査
肺機能検査
肺機能検査は、呼吸によって空気を吸ったり吐いたりする動作を通じて、肺の働きを調べる検査です。主に評価される項目は、以下の3点です。
- 努力性肺活量:最大限に吸い込むことができる空気の量であり、肺の柔軟性を評価します
- 一秒量:一秒間に吐き出すことができる空気の量であり、気管支の閉塞の程度を確認します
- 一秒率:一秒量を努力性肺活量で割った値であり、気管支の閉塞の有無を判断します
喘息では、気管支に炎症が生じることで閉塞が起こるため、一秒率や一秒量の測定が重要となります。
気管支喘息では、炎症によって気管支が狭くなった状態になるため、肺機能検査では「閉塞性障害」と呼ばれる異常が認められます。閉塞性障害がある場合、息を吐く力が低下するため、一秒率や一秒量が減少します。一秒率が70%以下であった場合には、気管支が狭くなっていると診断されます。
また、肺機能検査では、息を思いきり吐いた際に得られる呼気の流れと量を示す曲線を「フローボリューム曲線」と呼びます。気管支喘息の患者様では、この曲線が凹型になることが特徴です。
気道可逆性試験
気管支喘息の診断においては、短時間作動型β刺激薬の吸入によって肺機能が改善するかどうかを確認します。このような改善が見られる場合、「気道可逆性がある」と判断されます。
気道可逆性を評価するためには、吸入薬を使用した15〜30分後に肺機能検査を行い、吸入前後の一秒量を比較します。この検査は「気道可逆性試験」と呼ばれます。一秒量が12%以上かつ200mL以上改善した場合には、気道の可逆性があると判断され、喘息の可能性が高いとされます。
さらに、喘息の場合、吸入後に咳や喘鳴などの症状が軽減されるケースもよく見られます。
気道抵抗性試験(モストグラフ)
通常の肺機能検査に加えて、「モストグラフ」と呼ばれる気道抵抗(=気管支の狭さ)を測定する検査もあります。検査方法は、マウスピースを咥えて約20秒間、普段通りに呼吸するだけという非常に簡単なものです。4〜5歳の小さなお子さんでも実施可能なため、小児の患者様にとっても非常に有用な検査です。
気管支が狭くなっている場合には、波の山が高くなり、赤〜黒色で表示されます。一方、気管支が広く異常がない場合には、波が平らで緑色に表示されます。
モストグラフでも、気道可逆性試験を行うことができます。短時間作動型β刺激薬の吸入後に気道抵抗が改善すると、波の高さが低くなり、色も緑色へと変化します。
吸入薬の使用後には気道抵抗が改善され、波が低くなって緑色に変化している様子が確認できます。
呼気一酸化窒素濃度測定(NO検査)
喘息の患者様では、気道に炎症が生じることで、一酸化窒素(NO)を生成する酵素が増加し、呼気中のNO濃度が高くなる傾向があります。子供の場合、正常値は20ppb以下とされており、35ppb以上であれば喘息の可能性があると考えられます。
ただし、鼻炎があると呼気中のNO濃度が上昇することがあるため、検査結果の解釈には注意が必要です。
検査方法は非常に簡単で、息を吐いた状態でマウスピースを咥え、大きく息を吸い込みます。その後、一定のスピードで息を吐き出すことで検査が完了します。分析には約1分程度しかかからず、すぐに結果が確認できます。
特異的IgE抗体検査
特異的IgE抗体検査は、血液を用いて何に対してアレルギーがあるかを調べることができる検査です。
この検査の大きなメリットは、必要な血液量が非常に少なく(約0.1mL)、耳や指先から小さな針で採血できる点です。検査結果は約20分程度で判明するため、お子さんへの負担も少なく、安全に行うことができます。
また、特定のアレルゲンに対する反応とは別に、全身のアレルギー反応の強さや体質を示す指標として「血清総IgE値」があります。血清総IgE値が高いほど、アレルギー反応が強く出ている可能性があります。ただし、小児の場合は年齢によって基準値が異なるため、結果の解釈は慎重に行います。
小児気管支喘息の治療
喘息の特徴は、慢性的な気道の炎症が続くことです。炎症によって傷ついた気道の粘膜が元の状態に回復するには、長い時間を要します。一度傷ついてしまった気道はとても敏感になり、些細な刺激でも発作を起こしやすくなります。
このような状態が長く続くと、やがて肺の働きが低下してしまうことがあります。そのため、喘息の長期管理がとても大切です。
喘息の長期管理とは、症状をしっかりコントロールして、喘息のないお友達と同じように元気に生活できるようにすることです。これによって気道の炎症を抑え、気道の構造が変化してしまう「リモデリング」を防ぐことに繋がります。
環境整備
環境整備で目指すことは、生活環境から喘息発作の原因となるものを減らすことです。喘息発作で一番重要なアレルゲンは、ダニやハウスダストです。
これらをできるだけ生活環境から取り除くために、こまめに掃除機をかけたり、週に1回は布団を日光に干したりすることが大切です。また、犬や猫、小鳥など毛のあるペットは、できれば飼育しないことをお勧めします。すでに飼っている場合には、かかりつけ医と相談するようにしましょう。
また、タバコの煙は喘息のお子さんの気道を強く刺激してしまいます。お子さんの前で喫煙しなくても、呼気や衣類に付着した化学物質が気道に悪影響を与えることがあります。ご家族に喫煙者がいる場合には、ぜひ禁煙に挑戦してみてください。
運動療法
喘息の症状が緩和できている場合には、適度な運動を行って基礎体力を向上させましょう。運動によって発作が起こりにくくなり、重症化を防ぐ効果も期待できます。
喘息の患者様には主に、水泳や適度なウォーキングなど、湿度が保たれた環境で行える運動が勧められます。ただし、適切な治療を受けていれば、どのような運動でも行うことが可能です。お子さんが好きで、楽しく続けられる運動を勧めてあげるのが良いでしょう。
一方で、運動によって喘息発作が誘発されることがあります(運動誘発ぜん息と呼びます)。予防のためには、運動前にしっかりウォーミングアップを行い、冬場など乾燥した環境ではマスクを着用するなどの工夫が有効です。運動誘発喘息の頻度が多い場合には、運動前に気管支拡張薬を吸入したり、内服したりすることで予防できます。
もし発作が起きてしまった場合には、楽な姿勢でゆっくり呼吸をしながら、少しずつ水分を取りつつ休みましょう。気管支拡張薬があれば使用してください。多くの場合、症状は15分ほどで落ち着きます。症状が改善した場合には、運動を再開しても問題ありません。
ただし、しばらく時間が経っても症状が改善しない場合には、医療機関を受診してください。運動の度に発作が起きてしまうような場合は、喘息の基本的なコントロールが不十分である可能性があります。その場合には、治療内容の見直しを検討します。
薬物療法
小児喘息の治療には2つの目標があります。1つ目は「症状を防ぐこと」で、2つ目は「成人型喘息へ移行しないようにすること」です。
これらの目標を達成するためには、症状の程度に応じた適切な治療薬の選択が重要です。治療薬は年齢によって使用できる種類が異なりますが、吸入薬が治療の中心となります。そのため、吸入方法については当院のスタッフが丁寧に指導します。
また、原因となるアレルゲンからの抗原回避も、発作予防において非常に重要です。
ステロイド薬
気管支の炎症を抑える薬で、喘息の長期管理に使用されます。主に吸入薬として使用しますが、症状が重い場合には、内服薬や注射薬を使用することもあります。
ロイコトリエン受容体拮抗薬(内服薬)
気道の炎症を抑えるとともに、狭くなった気管支を広げる効果に期待できます。
β2刺激薬(吸入)
気管支を広げる作用のある吸入薬で、主に発作時に使用されます。
テオフィリン薬
気管支拡張作用を持つ内服薬で、長期間の管理に用いられることがあります。
小児気管支喘息は完治する病気?
小児喘息の治療目標は、大人になってからも喘息を持ち越すことなく、子供のうちにしっかり治すことです。そのための第一歩として、「薬を使っていれば発作が起こらない」状態を目指すことが大切です。
症状が出ていない時でも、気道の中では炎症が続いていることがあります。そのため、「症状がないから」といって薬を中断せず、毎日きちんと継続することが重要です。
小児喘息の段階でしっかりとコントロールできれば、次のステップとして薬が不要な状態へと進むことができ、大人の気管支喘息へ移行するのを防ぐことが可能になります。
喘息の発作が起きたときの対処法
喘息発作が起きてしまった時の対処法を、予め知っておくことが大切です。
まずは痰が絡みにくくなるよう、こまめに水分を摂らせてください。時には吐いてしまうこともありますが、痰が出ることで呼吸が楽になる場合もあります。
気管支拡張薬など、医師から発作時のために処方されている薬がある場合には、指示に従って使用してください。
換気をしたり、少し外に出てみたりすることで気分転換になり、呼吸がしやすくなることもあります。発作時には仰向けで寝るよりも、少し体を起こしている方が呼吸も楽になります。小さなお子さんの場合は、抱っこしてあげることで体が冷えにくくなり、不安も和らげることができます。
これらの対処をしても症状が良くならず、強い苦しさが続く場合や、夜間に眠れない、すぐに目を覚ましてしまう、何度も吐いてしまうなどの状態が見られる場合には、迷わずに当院または救急病院へ受診してください。
受診の目安
飲み薬や吸入薬を使用しても効果が十分でない場合、無理に我慢するのは危険です。以下のような状況では、適切な対応をとることが大切です。
- 吸入薬で症状が治まったあと、3時間以上経って再び息苦しくなった場合は、もう一度吸入薬を使用してください。一度症状が落ち着いても、翌朝には必ず医療機関を受診しましょう。
- 吸入薬で症状が治まったあと、3時間以内に再び息苦しくなった場合は、症状が短時間で再発しているため、早めに医療機関を受診してください。
- 唇の色が紫色になっている、うとうとして呼びかけに反応しない、尿や便を漏らしてしまう場合は、すぐに救急車を呼び、速やかに医療機関を受診してください。