先天性心疾患とは
先天性心疾患とは、生まれつき心臓や血管の構造の一部に異常がある病気を指します。心臓の発生は受精後約3週間で始まりますが、胎児期に心臓や血管の形成に異常が生じた場合に、先天性心疾患として現れます。
この疾患は、約100人に1人、つまりおよそ1%の割合で発生しており、年間では約1万人の赤ちゃんが先天性心疾患を抱えて生まれているとされています。
先天性心疾患の種類
心室中隔欠損症(VSD)
心室中隔欠損症(VSD)は、右心室と左心室の間の壁(心室中隔)に穴があいている病気で、血圧の高い左心室から血圧の低い右心室へ血液が流れ込み、肺や左心室に負担がかかる点が問題です。
先天性心疾患の中でも最も頻度が高く、健診などで心雑音が聞こえることで発見されることが多くあります。
穴が小さい場合は、流れる血液の量が少なく、ほとんど症状がないこともあります。穴が非常に小さい時は自然に閉じることもあり、経過を観察するケースもあります。ただし、欠損部の位置によっては、大動脈弁の変形などの理由から、小さくても手術が必要になることがあります。(最近では積極的に手術で閉鎖するケースが増えています)
穴が大きい場合は、赤ちゃんの頃からミルクが十分に飲めない、体重が増えない、元気がないなどの症状が現れます。
肺に過剰な血液が流れることで「肺高血圧」になり、左心室にも負担がかかって「心不全」を引き起こすことがあります。これらの合併症を防ぐため、早期の手術が必要です。(穴の大きさによって症状の出方や治療のタイミングが異なります。)
また、感染性心内膜炎のリスクや、大動脈弁の変形などの合併症がある場合も、手術が検討されます。
心房中隔欠損症(ASD)
心房中隔欠損症(ASD)は、右心房と左心房の間の壁(心房中隔)に穴があいている病気です。
穴が小さい場合は症状がほとんどなく、気づかれないまま成人することもあります。
成人後に、疲れやすさ、息切れ、動悸などの症状が現れることがあります。
穴が大きい場合でも、子どもの頃から疲れやすいなどの症状が出ることがありますが、目立たないケースが多いです。
通常は無症状で、学校検診などで心電図異常を指摘されて初めて発見されるケースも少なくありません。加齢に伴い、右心房や右心室の拡大によって不整脈や心不全が起こることがあります。肺高血圧症を合併することは滅多にありません。
治療には、カテーテルを用いた特殊な器具による閉鎖術や、低侵襲心臓手術(MICS)などがあります。
ファロー四徴症(TOF)
ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot:TOF)は、1888年にフランス人医師ファロー先生が報告した、4つの特徴を持つ先天性心疾患です。特徴的な症状はチアノーゼです。
先天性心疾患は、「チアノーゼ性心疾患」と「非チアノーゼ性心疾患」に分けられますが、ファロー四徴症はチアノーゼ性心疾患の中で最も頻度の高い病気です。
ファロー四徴症は、心室中隔欠損症と肺動脈狭窄、大動脈の右室騎乗、右室肥大の4つの異常を特徴としています。これらの異常により、左右の心室間で動脈血と静脈血が混ざり合い、体内に十分な酸素が供給されず、チアノーゼが生じます。肺動脈狭窄が強い場合には、肺で酸素化される血液が極端に減少し、無酸素発作が起こることがあり、命に危険が及ぶこともあります。
生後間もない時期や肺動脈の発育が不十分な症例では、チアノーゼの軽減や無酸素発作の予防を目的として、カテーテル治療(経皮的肺動脈形成術)や外科手術(体肺短絡術)が行われることがあります。体肺短絡術は、鎖骨下動脈と肺動脈の間に人工血管をつなぎ、肺への血流を増加させる手術です。
その後、根治手術として心室中隔欠損の閉鎖と肺動脈狭窄の解除を行います。近年では、乳幼児期から根治手術を行うことも可能となっており、低侵襲心臓手術(MICS)によって、輸血を行わず、6~7cm以下の小さく目立たない手術創で治療を行われています。
動脈管開存症(PDA)
赤ちゃんは、お母さんのお腹の中では羊水の中にいるため、肺呼吸ができません。そのため、ヘソの緒を通じてお母さんの血液から酸素を受け取っています。赤ちゃんが生まれるまでの、肺を使わない血液の流れを「胎児循環」と呼びます。
この「胎児循環」では、肺に血液が大量に流れないようにするために、赤ちゃんがお腹の中にいる間だけ使われる2つの「抜け道」があります。それが「卵円孔」と「動脈管」です。
これらの抜け道は、通常は出生後に自然に閉じますが、稀に閉じないことがあります。動脈管が閉じなかった場合「動脈管開存症」と呼ばれます。この状態では、大動脈から肺動脈へ血液が流れ込み、心不全や肺高血圧症を招く危険性があります。
動脈管が大きい場合は、乳幼児期に緊急手術が必要になることがあります。小さい場合は症状がほとんど出ないことも多いですが、感染性心内膜炎や動脈管の動脈瘤化といったリスクがあります。
早産児の場合は薬物療法が有効で、成熟児では外科的に動脈管を結紮する手術が行われます。
乳児期後半以降は、カテーテル法によって動脈管にコイルを詰める「経皮的コイル塞栓術」を行い、動脈管の径が太い場合には、外科的に結紮する手術が選択されます。
房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)(AVSD、CAVC、ECD)
房室中隔欠損症は、心室中隔欠損、心房中隔欠損、そして心臓の房室弁の形成異常を伴う先天性心疾患です。房室弁の形態によって「完全型」と「不完全型」に分類されます。
完全型では、左右の房室弁が一つの共通房室弁として形成されており、この弁を介して逆流が起こることがあります。その結果、肺高血圧症や心不全を発症し、乳児期に根治手術が必要となるケースもあります。症例によっては肺動脈絞扼術が行われることもあります。
不完全型では、左右に分かれた房室弁がそれぞれ独立して存在しますが、弁に亀裂があることで逆流が生じることがあります。
完全大血管転位症(TGA)
全大血管転位症は、先天性心疾患の約1.8%を占め、約5,000人に1人の頻度で発生する病気です。「大血管」とは、大動脈と肺動脈のことで、完全大血管転位症ではこの2つの血管の位置が完全に逆になっています(転位とは、位置が正常と逆であることを意味します)。
通常、大動脈は左心室から、肺動脈は右心室から起始しますが、完全大血管転位症の場合ですと、大動脈が右心室から、肺動脈が左心室から起始します。
また、完全大血管転位症は、心室中隔欠損と肺動脈狭窄の有無により、以下の3つの型に分類されます。Ⅰ型は心室中隔欠損がないタイプ、Ⅱ型は心室中隔欠損があるタイプ、Ⅲ型は心室中隔欠損と肺動脈狭窄の両方があるタイプです。
Ⅰ型では、生後まもなく動脈管が閉じることで強いチアノーゼが現れることが多く、動脈管を開かせるためにプロスタグランディン製剤の投与が必要になります。同時に、カテーテル法を用いて心房中隔を広げる「心房中隔裂開術(BAS)」が行われます。これらの内科的治療の後、ほとんどの症例で生後1週間前後に根治手術である「Jatene手術」が行われます。
Ⅱ型では心室中隔欠損があるため、プロスタグランディン製剤やBASが不要なことが多いです。心不全やチアノーゼが強い場合には、生後2~4週でJatene手術が行われます。症例によっては、肺血流を減らすために肺動脈絞扼術が行われることもあります。
Ⅲ型では、乳児期に体肺短絡術を行い、1歳以降に「Rastelli手術」が実施されます。
両大血管右室起始症(DORV)
両大血管右室起始症は、大動脈と肺動脈の両方が解剖学的右心室から起始する先天性心疾患の総称です。この疾患では、左右の心室間に短絡があるため、肺血流が増加して心不全や肺高血圧症を呈するタイプと、肺動脈狭窄を合併してチアノーゼを呈するタイプの2つに大別されます。
肺血流が多い場合には肺動脈絞扼術が行われます。一方、肺血流が少ない場合には体肺短絡術が行われます。
根治手術の方法は、病型や心室中隔欠損の位置、肺動脈の発育状態などにより異なります。
総肺静脈還流異常症(TAPVC)
本来であれば左心房に還流するはずの肺静脈が、体静脈系に還流してしまう先天性心疾患です。この疾患では、心房中隔欠損や動脈管開存が、体静脈血と肺静脈血が混合するための経路として必要になります。
通常は、チアノーゼ、肺血流の増加、肺うっ血に伴う心不全や呼吸不全を呈し、出生直後から重篤な病態となることが多いです。肺静脈が還流する場所に応じて、以下の3つの病型に分類されます。
1つ目は「上心臓型」で、肺静脈が上大静脈に還流します。2つ目は「心臓型」で、右心房や冠状静脈洞に還流します。3つ目は「下心臓型」で、門脈や下大静脈に還流します。
ほとんどの症例が新生児期に緊急手術が行われます。手術では、左右の肺静脈が集まる共通肺静脈と左心房を吻合します。ただし、肺静脈の還流部に狭窄がある場合は、手術の危険性が高くなるため、慎重な対応が求められます。
大動脈縮窄・離断症(CoA、IAA)
大動脈離断症は、大動脈弓の一部が欠損してしまう病気です。他に心臓病を伴わない単純型と、心室中隔欠損症などの心内奇形を伴う複合型に分かれています。
単純型の場合は、乳児期以降に発見されることも少なくありません。一方、複合型では動脈管開存を伴い、新生児期や乳児早期に症状が現れることが多いです。
新生児期に発症した場合、動脈管を開存させて下半身への血流を維持するために、プロスタグランディン製剤を使用します。その後、外科的に大動脈の再建術を行います。
再建方法には、狭窄部を直接吻合する方法や、鎖骨下動脈を利用して狭窄部を拡張する方法などがあります。症例に応じて、最適な術式が選択されます。
先天性心疾患の症状は?いつわかる?
先天性心疾患は、2つあり「非チアノーゼ性心疾患」と「チアノーゼ性心疾患」に分かれています。
チアノーゼとは、皮膚や粘膜が青紫色になる症状のことで、分類の目安となります。
チアノーゼ性心疾患には、ファロー四徴症や完全大血管転位症、三尖弁閉鎖症、肺動脈閉鎖症などが含まれ、いずれも幼いうちに発見されることが多い疾患です。これらは先天性心疾患全体の30%〜40%を占めます。
一方、非チアノーゼ性心疾患は外見からは判断しにくく、大人になってから心電図検査や精密検査によって先天性心疾患があることが判明する場合があります。非チアノーゼ性心疾患は全体の60%〜70%を占め、代表的な疾患には心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、房室中隔欠損症、動脈管開存症などが挙げられます。
先天性心疾患の原因
特定できない場合もありますが、いくつかの要因が関与していることが知られています。
例えば、お母さんが妊娠中に風疹などの感染症にかかっていた場合や、糖尿病、膠原病などの持病がある場合には、胎児に影響を及ぼす可能性があります。また、アルコール、リチウム、サリドマイドなどの薬剤の使用も、先天性心疾患の原因となることがあります。さらに、ダウン症候群(21トリソミー)、13トリソミー、18トリソミーなどの染色体異常や遺伝子異常も、心疾患の発症に関与することがあります。最近では、妊婦へのワクチン接種が普及したことにより、ウイルス感染のリスクが減少し、先天性心疾患の頻度は減少傾向にあります。
先天性心疾患の寿命
心臓の手術は、心臓に直接メスを入れるため、多少なりとも心臓に傷が残ります。そのため、手術が終わったからといって安心できるわけではなく、どのような手術が行われたかによって、長期的な成績(遠隔成績)は大きく異なります。
また、手術を受けた時期、病気の進行度や手術時の年齢によっても、長期的な予後は変わってきます。例えば、心室中隔欠損症や心房中隔欠損症のような単純な奇形であっても、手術から20~30年後には、手術による不整脈や、手術の時期が遅れたことによる障害が現れることがあります。動脈管のように心臓の外にある構造を切断する手術を除けば、心臓手術において全く障害が残らないというケースは非常に少ないのが現状です。とはいえ、単純な奇形の場合は、多くの方が手術によって通常の方と同じような寿命を全うされると考えられています。ただし、術後40~50年先の経過については、まだ十分な長期データがそろっていないため、今後も注意深く見守っていく必要があります。
手術方法が年々改良されてきたファロー四徴症などでは、過去に手術を受けた方と、現在の技術で手術を受けた方とでは、長期的な成績に大きな差があります。フォンタン型手術を受けた方についても、遠い将来にどのような経過をたどるかについては、現在のところ、長期的なデータが十分に揃っていません。