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小児科って何歳まで受診するもの?

――思春期の子どもと医療のかかわり方を考える――
    「そろそろうちの子も中学生。もう小児科は卒業かな?」 診察室でよく耳にする言葉です。 発熱や咳で受診するたび、幼いころから通ってきた小児科の待合室で、周囲が小さな子どもばかりだと、なんとなく「もう場違いかも」と感じる保護者の方も多いようです。 では実際、小児科は何歳まで受診してよいのでしょうか。
    ■「小児科」の定義と対象年齢
「小児科」とは、一般に新生児から思春期(おおむね18歳未満)までの子どもを対象とする診療科です。 ただし、明確な年齢の上限が法律で定められているわけではありません。 日本小児科学会では「小児の心身の成長・発達を支える医学」として、小児科医の対象を胎児から青年期までとしています。つまり、高校生くらいまでが小児科の守備範囲と考えられています。 一方、医療機関ごとに方針はさまざまです。 例えば「15歳まで」「中学卒業まで」といった年齢制限を設けるクリニックもあれば、「18歳まで」「本人が希望する間は受け入れる」と柔軟に対応している施設もあります。 ですから、「小児科は何歳まで」という明確な線引きはなく、お子さんの発達段階と診療内容に応じて選ぶことが大切です。
■思春期は「子ども」でもあり「大人」でもある時期
    中学生・高校生の年代は、心身ともに大きく変化する「思春期」です。 体つきは大人に近づきますが、ホルモンのバランスや心の成長はまだ不安定。 睡眠リズムが乱れたり、頭痛や腹痛などストレスによる症状が出たり、生活習慣病の入り口に立つケースもあります。 この時期は「大人の体」への移行期であると同時に、「子どもの医療から成人医療へと移る時期」でもあります。 思春期の医療には、成長・発達の視点を持ちながら、本人の自立を支える姿勢が求められます。 これはまさに小児科医が最も得意とする領域なのです。
    ■小児科で診るメリット
思春期の子どもを小児科で診る最大の利点は、「その子の成長の流れを理解していること」です。 たとえば、幼少期からアトピー性皮膚炎や喘息、アレルギーを抱えてきた子どもにとって、長年経過を追ってきた小児科医は、発作の傾向や家族のサポート状況をよく知っています。 また、発達や学校生活、人間関係などの背景を含めて健康を考えることができます。 単なる病気の治療だけでなく、「成長の中での困りごと」に寄り添える医療が、小児科の強みです。 さらに、小児科では保護者だけでなく、本人との関わりを重視します。 少しずつ自分の症状を説明し、治療を理解し、自分で健康を管理する練習を始める――それが自立への第一歩となります。 こうしたプロセスを丁寧に支えられるのも、小児科ならではの役割です。
■内科への移行はいつがいいの?
    もちろん、いずれは成人診療科へ移っていくことになります。 一般的には、高校卒業を目安に内科や各専門科へ紹介するケースが多いです。 ただし、疾患によってはもう少し早く移行することもあります。 たとえば糖尿病やてんかん、先天性心疾患など、成人後も継続的な治療が必要な病気では、**小児科と内科が連携して「トランジション(移行医療)」**を進めるのが理想です。 この移行期医療は、単に「主治医が変わる」というだけでなく、本人が自分の病気を理解し、主体的に医療に関われるようにするプロセスです。 小児科医は、保護者と本人の橋渡しをしながら、安心して次のステップへ進めるよう支えます。
    ■本人の気持ちも大切に
15歳を過ぎると、本人が「もう小児科は恥ずかしい」と感じることもあります。 一方で、「先生に慣れているから、小児科の方が安心」と思う子もいます。 その気持ちはどちらも自然なことです。 医療は「信頼関係」があってこそ成り立ちます。 もし本人がまだ小児科を希望しているなら、無理に変える必要はないでしょう。 逆に、「大人扱いしてほしい」と感じるようになったら、内科や婦人科、心療内科など、本人のニーズに合った診療科を選ぶようご家族と一緒に小児科医が提案していくことが理想的です。その際、次に受診すべき医療機関を紹介していきます。
■保護者の関わり方も変化のとき
    思春期の医療では、保護者の関わり方も少しずつ変わります。 診察室に一緒に入るかどうか、病状説明を本人にどう伝えるか――これらは成長に合わせて調整していきます。 15歳前後になったら、医師と本人だけで話す時間を設けることもあります。 それは「親を排除するため」ではなく、「本人の自立を促すため」です。 親としては「まだ任せて大丈夫かな」と心配になりますが、医療の場で少しずつ自分の健康を自分で考える経験を積むことは、将来の大きな財産になります。 親子で一緒に医療を卒業していく――そんなイメージで見守っていただけたらと思います。もちろん、ご両親に共有してほしい診療情報があるような場合は、我々の方から何らかの形で共有していきます。
    ■まとめ:小児科は「年齢」ではなく「成長段階」で考える
結論から言えば、小児科は15歳を過ぎても受診してかまいません。 むしろ、心と体が不安定な思春期こそ、小児科がサポートできることがたくさんあります。 医療の世界では、「小児」から「成人」への移行を年齢だけで区切るのではなく、発達段階や自立の準備度で考えることが重視されています。 小児科は、子どもが赤ちゃんのころから見守り、思春期を経て、自分の力で健康を守れるようになるまで寄り添う場所です。 そして、必要なときには適切なタイミングで次の医療へとつなげる――それが小児科医の大切な役割です。 「もう小児科は卒業かな?」と思ったときこそ、一度かかりつけの小児科医に相談してみてください。 きっと、その子にとっていちばん自然で安心できる道を一緒に考えてくれるでしょう。