乳児期の離乳食と食物アレルギー
―「食べる前に守る」スキンケアが未来のアレルギーを減らす―
「卵はいつから食べさせていいのですか?」「ピーナッツは怖いので遅らせた方がいいですか?」
乳児健診や外来で、こうした質問を受ける機会が年々増えています。食物アレルギーに対する社会的な関心が高まる一方で、「できるだけ遅く」「なるべく避ける」という考え方が、必ずしもお子さんを守るとは限らないことが、近年の医学研究で明らかになってきました。
食物アレルギーは「食べて」起こるとは限らない
私たちは長い間、「食べて初めてアレルギーになる」と考えてきました。しかし現在では、食べる前に皮膚から体内に入り、免疫が過剰反応を覚えてしまうという仕組みが、食物アレルギー発症の大きな原因であることが分かっています。これを**「経皮感作(けいひかんさ)」**と呼びます。
乳児の皮膚はとても薄く、バリア機能が未熟です。とくに湿疹や乾燥、かゆみがある皮膚では、外界の物質が簡単に体内へ入り込んでしまいます。家庭のホコリや寝具に含まれる微量の卵や小麦、ピーナッツの成分が、荒れた皮膚から侵入し、免疫が「これは敵だ」と誤って記憶してしまうことで、食物アレルギーの土台が作られるのです。
つまり、アレルギーは口からではなく、皮膚から始まっていることが多いのです。
湿疹がある赤ちゃんは、アレルギーになりやすい
アトピー性皮膚炎や乳児湿疹のある赤ちゃんは、そうでない赤ちゃんに比べて、食物アレルギーの発症率が高いことが知られています。これは決して偶然ではなく、「皮膚のバリアが壊れた状態」が、経皮感作を引き起こしやすいからです。
「湿疹は成長すれば治るから」と様子を見ることが、実はアレルギーのリスクを高めてしまう場合があります。皮膚の炎症を放置すると、アレルギーの“入り口”を開けっぱなしにしていることになるのです。
スキンケアはアレルギー予防の第一歩
食物アレルギー予防で、最も大切なことの一つが毎日のスキンケアです。
しっかりと保湿を行い、皮膚を「つるつる」「しっとり」した状態に保つことで、アレルゲンが侵入しにくくなります。これは単なる美容の話ではなく、免疫教育を正しく行うための医療的な予防策です。
特に重要なのは、
- 入浴後5分以内に保湿剤を塗る
- 湿疹がある場合は、医師の指示に従って適切な外用薬を使う
- 「少し赤いだけ」と自己判断で放置しない
という基本を守ることです。
離乳食は「遅らせる」より「正しく始める」
かつては、卵やピーナッツなどのアレルギーを起こしやすい食品は「できるだけ遅く」と指導されていました。しかし現在の研究では、適切な時期に、少量から食べ始める方がアレルギーを減らすことが分かっています。
生後5~6か月頃から離乳食を開始し、皮膚の状態が整っていれば、加熱した卵や小麦なども少量から進めていくことが推奨されています。口から食べることで免疫は「これは安全なもの」と学習し、アレルギーを起こしにくくなります。これを経口免疫寛容と呼びます。皮膚から入ってきたものは、これは敵だと体は反応することがありますが、口から入り消化管をとおして体に入ってきたものは食べ物だと思いやすいということです。
大切なのは、「食べさせる前に、皮膚を整えておく」ことです。湿疹だらけの状態で食べ始めると、皮膚からの経皮感作と、口からの免疫学習がぶつかり合い、かえってアレルギーが起こりやすくなってしまうのです。
皮膚と食事は、同時に管理する
食物アレルギー予防の本質は、「食べ物」だけではなく、皮膚と食事をセットで管理することにあります。
スキンケアでバリアを整え、離乳食で正しい免疫教育を行う。この二つがそろって初めて、赤ちゃんの体は「これは安全」「これは危険」と正しく判断できるようになります。
「何を食べさせるか」だけでなく、「どんな皮膚の状態で食べさせるか」。これが、これからのアレルギー予防の新しい考え方です。
最後に
食物アレルギーは、決して「体質だから仕方ない」ものではありません。乳児期の皮膚ケアと離乳食の進め方によって、リスクを大きく下げることができます。
赤ちゃんの未来の食生活を守るために、まずは今日のスキンケアから始めてみてください。わからないことがあれば、ぜひかかりつけの小児科に相談してください。私たちは、食べることを楽しめる人生の土台づくりを、全力でサポートします。必要な場合は離乳食を準備してもらい、クリニックで様子をみながら始めることもできます。
怖いから避ける」よりも、
「賢く、少しずつ、楽しく食べる」ほうが、ずっと安全で効果的です。
赤ちゃんの免疫は、意外とお利口です。ぜひその力を信じて、離乳食を進めていきましょう。
