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セルフコントロールと子どもの認知機能の発展

――学校生活のルールが育む「生きる力」――

こんにちは。小児科クリニックの院長としてお子さんと接していると、「うちの子は我慢ができなくて…」「学校でのルールが苦手で心配です」というご相談を多くいただきます。
実は、この“ルールを守る力”の背景には セルフコントロール認知機能の発展 が深く関わっています。

ルールを守れない=性格やしつけの問題、と短絡的に考えられがちですが、脳科学の視点で見ると、これは子どもの発達段階による自然な差でもあるのです。

本稿では、セルフコントロールがどのように育つのか、そして 学校生活でのさまざまなルールが子どもの発達にどう貢献しているか を、ご家庭での関わりと結びつけながらお伝えします。

1.セルフコントロールは“脳の力”

セルフコントロールとは、

  • 感情の調整
  • 衝動を抑える力
  • 注意の切り替え
  • ルールを理解し、それに沿って行動する力

これらの総称です。
これは「頑張れ」では身につきません。脳の前頭前野を中心とした発達で徐々に成熟していく能力だからです。

3〜5歳で急激に伸び、小学校高学年〜思春期で完成に近づきます。
つまり、小学校低学年で“落ち着かない”“間違える”のはむしろ自然な発達経過です。

2.認知機能の発展がルール理解を支える

ルールを守るためには、以下の認知機能が必要です。

  • ワーキングメモリ:指示を覚えて行動する
  • 注意制御:気が散る中でやるべきことに集中する
  • 抑制機能:本当はやりたいことを我慢してルールを優先する
  • 認知的柔軟性:状況に合わせて行動を切り替える

これらは大人では当たり前のように使っている機能ですが、子どもにとってはまだまだ発展途上。
スピードの違う階段を登っているようなものです。

3.学校生活は認知機能を総合的に育てる場

学校には多くのルールがあります。

  • 授業中は席に座る
  • 挙手して発言する
  • 時間割に沿って行動する
  • 友達を押さない、叩かない
  • 順番を待つ
  • 宿題を期日までに提出する

これらは、単なる「厳しさ」ではなく、実は 脳を育てるための絶好の環境 です。

  • (1)授業のルール → “抑制機能”の発達

「今は発表したいけれど、順番を待つ」
「話したいけれど、聞く時間だから我慢する」
こうした小さな積み重ねが衝動のコントロールを高めていきます。

  • (2)時間割に沿った行動 → 見通し・計画性

チャイムに合わせて行動することは、予定を理解し、行動を切り替える良い練習です。

  • (3)集団で生活する → 社会性・感情調整

友だちとの関わりやトラブルは、感情のセルフコントロールを実践する場そのもの。
失敗も含めた経験から、子どもは「どうすればうまくいくか」を学びます。

  • (4)宿題・提出物 → やり抜く力(グリット)

締め切りという負荷が、計画性や責任感の発達を促します。

4.“守れるようになるために必要なのは、叱ることではない”

ルールを守れないとき、
「わざとやっている」「しつけが足りない」
と大人は感じてしまいがちです。

しかし、多くの場合は

脳の発達が追いついていない/認知の負荷が高すぎる

という理由です。

ですから、最初に必要なのは 環境の調整

(1)見通しをはっきりさせる

  • 「これが終わったら休憩」
  • 1日の流れを絵や表にする
  • 家庭でも“時間割的”に動ける工夫を

(2)タスクを細かく分ける

「宿題しなさい」ではなく
→「まず1問だけ」
→「終わったら丸つけ」
とステップを分けるほうが、前頭前野に優しい指示になります。

(3)成功体験を言語化して伝える

  • 「ちゃんと順番を待てたね」
  • 「時間どおりに行動できたね」
  • 「約束守れたね」

こうしたフィードバックは、脳の“報酬系”を刺激し、セルフコントロールを伸ばす力になります。特に母にほめてもらえることは子どもたちにとって大きな自信につながります。かならず毎日なにかをほめてあげましょう。

5.感情のセルフコントロールは“共感”から始まる

ルールを守るためには、感情が安定していることも重要です。
感情が爆発しているときは前頭前野が働きにくく、ルールどころではありません。

このとき必要なのは、

「落ち着きなさい」ではなく、まず“気持ちの受け止め”。

  • 「そうしたかったんだね」
  • 「嫌だったよね」
  • 「わかるよ」

共感は甘やかしではなく、脳の状態を落ち着かせる科学的な介入です。

6.ご両親へのメッセージ

――ルールを守る力は、未来の“生きる力”になる**

学校生活のルールを守るということは、
社会の中で自分を調整し、人と協力していくための基礎です。
そして、その力は学力以上に子どもの人生を支える“生きる力”になります。

ただし、

ルールを守る力は、競争するものではありません。

早くできる子も、ゆっくり時間がかかる子もいます。

大切なのは、

  • 子どもの現在の発達段階を理解すること
  • 不要な失敗を防ぐために環境を整えること
  • 成功体験を積み重ねること
  • 感情に寄り添い、安心感の中で育てること

子どもたちは、適切な環境と関わりの中で、必ず必要な力を身につけていきます。
ルールを守るということは「子どもを縛る」ことではなく、
その子が将来自分らしく生きための“土台づくり” なのです。