こどもの「心雑音」って大丈夫?〜小児科医が伝えたい安心と注意のポイント〜
「健診で“心雑音があります”と言われました」
小児科外来でよく耳にする言葉です。突然そんなことを言われると、お母さんやお父さんはとても驚かれると思います。
“心臓に雑音がある”という言葉から、「病気なのでは?」「手術が必要なの?」と心配される方も少なくありません。
けれど、実は子どもの心雑音の多くはまったく問題のない“生理的な雑音”です。今日は、心雑音について小児科医の立場からわかりやすくお話しします。
■ 心雑音とはなにか
心臓は「ドクン、ドクン」と規則正しく動きながら、血液を全身に送り出しています。
その音は、心臓の中にある4つの部屋(右心房・右心室・左心房・左心室)と、そこに付く弁(バルブ)の開閉によって生じます。
健康な心臓では、聴診器を当てると「トン・トン」というはっきりした音が聞こえますが、血流のスピードや方向が少し変わると、「ザー」「シャー」というような音が混じることがあります。これが心雑音(しんざつおん)です。
心雑音そのものは“音”の名前であり、それがすぐに“病気”を意味するわけではありません。
つまり、「心雑音がある=心臓の病気がある」ではないのです。
■ 無害な心雑音(生理的雑音)と病的な心雑音
子どもの場合、体が小さく、胸壁が薄く、血流が速いことなどから、健診や診察で心雑音が聞こえることはよくあります。
特に3歳〜小学校低学年くらいまでの子どもでは、半数以上に一時的な心雑音が認められるとも言われています。
こうした「生理的雑音(無害な雑音)」は、心臓の構造や機能に異常がないのに聞こえるものです。
原因は、血流が速い、体が細い、発熱中、貧血気味など、一時的な生理的変化によることがほとんどです。
成長とともに胸の筋肉が厚くなり、血流のスピードが落ち着くと自然に聞こえなくなります。
一方で、まれに先天性心疾患(心臓の生まれつきの異常)などが原因となる「病的な雑音」もあります。
代表的なものとしては、
- 心室中隔欠損症(しんしつちゅうかくけっそんしょう)
- 心房中隔欠損症(しんぼうちゅうかくけっそんしょう)
- 動脈管開存症(どうみゃくかんかいぞんしょう)
- 肺動脈狭窄症(はいどうみゃくきょうさくしょう)
などがあり、これらでは血液の流れ方が通常と異なるため、特徴的な雑音が聞かれます。
■ どうやって区別するの?
小児科医は、聴診の音の性質からある程度の見当をつけることができます。
例えば、音の強さ、聞こえる場所、タイミング(心臓の収縮期か拡張期か)、持続時間、姿勢による変化などを丁寧に確認します。
無害な雑音は「柔らかく、短く、限られた位置で聞こえる」ことが多く、姿勢を変えると弱くなる傾向があります。
一方、病的な雑音は「強く、広い範囲に伝わり、姿勢では変わらない」ことが多いです。
ただし、聴診だけで完全に判断できるわけではありません。
もし少しでも病的な可能性があると判断された場合は、心エコー検査(超音波検査)で心臓の構造と機能を詳しく確認します。
これは痛みも放射線もない、安全で正確な検査です。
■ 「要精密検査」と言われたらどうすればいい?
健診で「心雑音があります」「小児循環器専門医での確認を」と言われた場合、まずは慌てずに受診しましょう。
紹介先では、心エコーや心電図、必要に応じて胸部レントゲンなどを行い、病的な要素があるかどうかを調べます。
実際には、精密検査を受けたお子さんのうち、7〜8割以上は“問題なし”と診断されるのが現状です。
ですから、「紹介=重い病気」というわけではありません。
むしろ、「大丈夫かどうかをきちんと確認してもらえる安心な機会」と受け取ってください。
■ 心雑音がある子に気をつけたいこと
もし生理的な心雑音と診断された場合、特別な生活制限は必要ありません。
運動、入浴、食事、学校生活すべて通常通りで大丈夫です。
また、予防接種や歯科治療にも制限はありません。
一方で、心疾患がある場合は、運動制限や感染予防、心内膜炎予防など、個々の病気に応じた注意が必要です。その場合は、主治医の指示に従ってください。
■ 成長とともに変わる「音」
成長するにつれて心臓も大きくなり、胸壁も厚くなります。
これにより、以前は聞こえていた雑音が次第に聞こえなくなるケースが多いです。
小学校高学年や中学生になる頃には、ほとんどの生理的雑音は自然に消失します。
ただし、思春期以降に新たに心雑音が出てきた場合や、息切れ・チアノーゼ(唇が紫になる)・胸痛・体重増加不良などの症状を伴う場合は、早めに再受診をおすすめします。
■ まとめ 〜「音」だけで判断しないで〜
心雑音は、あくまで“音のサイン”であり、“診断そのもの”ではありません。
多くの場合は成長に伴って消える一時的な現象であり、必要以上に心配する必要はありません。
一方で、ごく一部には治療が必要な心疾患が隠れていることもあるため、小児科医の判断で必要な検査を受けることが大切です。
お子さんの心臓は、私たち医療者がしっかり見守ります。
どうかお母さん・お父さんは、不安を一人で抱えず、気になることは遠慮なくご相談ください。
“雑音がある”ことは、“異常がある”こととは限りません。
むしろ「しっかり診てもらえた」という安心のきっかけとして捉えていただければと思います。一度きちんと心エコー検査でその構造と機能を確認しておくと安心して集団生活を送れるでしょう。
